糖尿病EDの漢方治療
■糖尿病EDの漢方治療
「寅卯の刻に行為すべし」とは?
中国古書「素問 生気通天論、金匱真言論」には「鶏鳴の時陽気が生じ始める。」とあり、「霊枢 順気一日分為四時」には「寅卯の時刻(朝の3時から7時までの間)は陰中の陽、五行では木(もく)(肝は五行学説では木に属する)の時刻」とある。健常な男性なら生理的に勃起現象が生じる時間帯でもある。男性の勃起現象や射精を肝の機能と結びつける考えは古来より存在する。そこで「EDならば一眠りしてから寅卯の時刻に性行為に及びなさい。」と忠告する漢方医が存在する。確かに自然界の陽気が衰え始める夕刻から夜間に、その日の労働の疲れが抜けきれないままに性行為に及ぶのは賢明でないかも知れない。
症例: 中国医案(症例)集にある症例である。25歳男子、若くして糖尿病発生。精神的緊張が極度に達し、それまでED気味であったのが初夜の失敗から完全にEDとなった。夫婦の両親が心配のあまり名高い漢方医を受診させた。その医者は「肝よりEDを治す医師」として名高かかった。柴胡 郁金 川芎 仙茅 淫羊藿 牛膝 蜈蚣 炙甘草にて治療を開始、5日後効果現れず。医師は言った。
「今日、明日と今回処方する薬を寝る前に服用しなさい。眠前に飲む薬を飲んだらゆっくりと三百を数えなさい。房事は明け方に鶏が鳴く時間帯に及ぶように。」
それからというもの、男は昼はせんじ薬を飲み、夕食後しばらくしてから眠前の頓服を服用すると三百を数えないうちに眠りに落ちた。鶏が鳴いても目が覚めない。
さらに5日後、自然に鶏鳴と共に目が覚めた。柔らかい朝の光が窓から差し込んでくる。心は落ち着いている。久しぶりに伸びやかな安らいだ気持ちを感じた。傍らには新妻が男の腕の中で薄い絹の寝衣をまとって眠っている。いとおしさを感じて男は妻の体に触れ始めた。妻はまだ目を覚まさない。男は体の奥から盛り上がってくる性感を感じ始め激しい勃起に気がついた。
以来、男のEDは改善され子宝にも恵まれた。後日談によると、新妻は医師からこう言われていたそうだ。
「5日後、あなたの夫は自然に鶏鳴時刻に目が覚める。その時は眠ったふりをして夫の好きなようにさせてから目を開けなさい。」
まさに名医であった。眠前の薬剤は酸棗仁(さんそうにん)遠志(えんし)菖蒲根(しょうぶこん)であった。肝腎心の三臓を調正し、安眠をもたらす眠剤である。
●牛膝(ごしつ) 帰経: 肝 腎 効能:補肝腎 強筋骨 日本で流通しているのが牛膝である。懐牛膝 あるいは准牛膝とも言われる。EDに使用される場合は補肝腎作用と川膝(せんしつ)の活血化淤の作用と牛膝、川膝一般の性質である引血下行、諸薬下行(諸薬を下へ導く)の引経薬の働きが利用される。補益肝腎薬として杜仲(とちゅう)続断(ぞくだん)なども併用される。
●川牛膝または川膝(せんしつ) 帰経: 肝 腎 効能: 祛風湿 活血化淤 牛膝に比較して色が黒い特徴がある。中国では活血化淤の作用は川膝にあるとされ、祛風湿作用を併せ持つ。EDに対しては牛膝 川膝の両者を使用する。 補益肝腎により精気を養い、引血下行 活血作用にて陰茎の充血を促し、温腎壮陽の諸薬を下に導くことによりED治療の効果を高めるとされる。
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